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日航機ニアミス判決 [├雑談]

「コレクション」

日航機ニアミス事故の際の管制官の責任が問われた裁判で、東京地裁は「個人追求は不適当」という判決を出しました。

管制官とのやり取りを趣味で時々傍受しているレベルに過ぎないオイラに言わせてもられば、極めて妥当な判決だったと思います。 

航空管制官は空の安全を司るプロの特殊技能者集団です。

空の世界にあこがれる人間から見れば、パイロットと同様に彼らもまた選ばれた人たちです。

今回の事故の原因と考えられた管制官の言い間違えですが、実は管制官の言い間違いは決して珍しいものではありません。

パイロットと管制官は、しゃべっていて(あ、言い間違えちゃった!)と気が付いた時、「コレクション」と言ってから、正しく言い直しをすることになってます。

ヒコーキと管制官のやり取りを聞いている人たちからすれば、管制官だけでなく、パイロットも含め、言い間違いはごく普通のことです。

ですからこの、「コレクション」という単語は交信を聞いているとよく出てきます。

もっとも、「コレクション」という言葉が発せられるのは、言った本人が(あ、今言い間違えちゃった!)と自覚できただけましともいえます。

実際には今回の事故のように、言った本人が言い間違いに気が付かないこともあります。

なぜ言い間違い、「コレクション」が起きるのでしょう?

「うっかり」とか、「気が抜けている」とかではなく、「コレクション」が多発しても仕方がない現状があります。

素人のオイラが思いつく点を書いてみます。 

 

忙しい管制官

画面に向かう管制官の様子をテレビでご覧になったことがあるでしょうか。

管制業務を行う管制官の見つめる画面には、ヒコーキの位置が二次元で表示されます。

高度、速度はヒコーキのシンボルマークの隣に数字で表示されます。

そのため管制官は、刻々変化していくヒコーキの動きをイメージの中で三次元に置き換え、判断し、指示を出さなくてはなりません。 

多い時には、一度に約20ものヒコーキを管制しなければならなくなるのだとか。

実際忙しいチャンネルを聞いていると、管制官は非常に早口で、次から次にたくさんのヒコーキに指示を出しています。

ベテラン管制官ですら、「時々わけが分からなくなることがある」のだそうです。

 

忙しいパイロット

パイロットの耳は非常に忙しいです。

まず、コックピット内でのクルーとのやりとりがあります。

特に新人パイロットは、ベテラン機長からの指示を聞き漏らさないよう神経を使います。

更にヘッドセットをつけているのですが、片方の耳で常に客室の様子をモニターしており、もう片方の耳で管制官からの声を聞き取ります。

ヘッドホンの内側の音も、外側の音も、どちらも決して聞き漏らすことができないわけです。

パイロットのヘッドホンには、同じ空域を飛ぶ他のヒコーキと管制官とのやりとりも絶えず入ってきます。

周辺の空域を飛ぶ他のヒコーキのやり取りも聞くことにより、パイロットの緊張感を持続させ、自機の周辺がどういう状況になっているかを理解するのに役立つとされているからです。

時々後ろからCAさんも入ってきます。

客室のモニター、クルー、CAとのやりとり、ヒコーキの操縦に気を配りながら、いつ出し抜けに入ってくるかもしれない管制官からの呼び出しにも注意していなければなりません。

 

英語で行われる交信

やり取りは「基本的に英語、自国内では母国語も可」なのですが、日本では基本的にすべて英語で行われています。

航空管制での交信内容は、”飛ぶこと”に限られています。

ですから特にトラブルのない通常の飛行であれば、いつも使用している定型文が用いられるので、中学生でも十分内容を理解することができます。

ただ、突発的な状況が発生した場合のコミュニケーションが難しくなります。(緊急時には日本語を使っても構わないことになっていますが)

英語のレベルにかなりバラつきがあるため、普段あまり使用しないちょっと複雑なやりとりの場合、???な英語になってしまうことがあります。

ですから通常でも言い間違いは起こるのですが、忙しい時、緊急時は特にコミュニケーションをうまくとることが難しくなり得ます。

 

呼び出しの問題

交信を聞いていると、管制官が何度も呼びかけているのにパイロットが気が付かないことが時々あります。

かと思うと、「○○航空△△便ですけど、今呼びました?」とパイロットが確認してくることもあります。

なぜこんなことが起こるのでしょう?

上述の通り管制官との交信にばかり集中するわけにいかないこと、非常に忙しいことの他に以下の点も考えられます。

民間航空会社のヒコーキの場合、航空会社のコールサイン+便名で呼び出しを行います。

例えば、ANAの258便ならば、「オールニッポン258」となります。

ですからパイロットにとっては乗務するごとに自分の”呼び名”が変わることになります。

長距離の国際線ならともかく、国内線乗務の場合、一日に何度も呼び名が変わることを余儀なくされます。

散々ある便名でやり取りをしても、数時間後にはまた別の便名で呼ばれることになるわけです。

国内線のパイロットは大抵3ケタ~4ケタの番号を1日に何度も覚え直さなくてはなりません。

オイラにとっては、これだけでも気が遠くなりそおです。 

 

個人の責任

こんな、様々なところに気を巡らして仕事を続けている人たちは、やっぱりすごいなぁ、と思ってしまいます。

こんなやりとり、トロいオイラにはとても無理です。

パイロットも管制官も、厳しく適正を見られ、選りすぐられた人たちだからこそこなしていけるのだと思います。

ただ、そんな選ばれた人たちがどんなに注意していても、ミスは起きてしまいます。

特に今回の事故の発生した場所は、自衛隊、米軍の訓練空域に隣接する超過密地帯です。

個人のうっかりミスであれば、「今度からもっと気をつけたまえ!」とか、もっとすごいテクを持った管制官に代えることで済みますが、そうではなく、人間の能力を超えた状況になってしまっているのが現状ではないかと思います

この空域を担当したことのあるベテラン管制官の証言を聞いてみても、あるうっかり者の管制官が起こしてしまった事故ではなく、起こるべくして起きてしまったのではないか、という印象を持ちました。

管制官の側でも、一度にたくさんのヒコーキを管制しなければならないので、どうすれば安全に誘導することができるか、ベテラン管制官が新人にいろいろとコツのようなものを伝授したり、いろいろやっているようです。

それほど忙しくない空域ではそれで十分安全が確保されるのでしょうが、ここの空域に限れば、もはや個人のスキルアップに頼るというレベルの問題ではないのではないかと思います。

 そういう意味で、今回の「管制官個人の責任は問わず」とした判決は妥当なものだったと思います。

被害者の側からすると、怒りの持って行き場が減ってしまい、釈然としないでしょうし、事故が発生した時のパイロットの責任の重さとの兼ね合いという観点で見ると、納得いかない方もいると思います。

でも、犯人を見つけ罰して満足する、というだけでは不十分と思います。

某パイロットが、「あそこの空域は忙しいのは分かるんだけど、管制官が何を言ってるかさっぱり分からん」と言っているのを聞いたことがあります。 

「さっぱり」とは言っても程度問題でしょうけど。

 

現場の今後

今回事故が発生した場所のほぼ真下には、3年後の2009年3月に静岡空港が開港します。

超過密空域に、下から上がってきて合流するヒコーキまで加わる形になるのかもしれません。

更に、羽田空港は、新誘導路整備(2007年7月供用予定)、D滑走路建設(2009年3月供用予定)という計画があります。

2009/01/22追記:
静岡空港開港は2009年6月に、羽田D滑走路供用は2010年10月にそれぞれ変更になりました。

いずれも便数を増やすための工事です。

それぞれの計画が実施されるごとに、この空域を通過するヒコーキは更に増えることになると思います。

今後ますますミスを犯しやすくなるであろう厳しい状況を放置して、「もっと頑張れ、もっと注意しろ」と管制官個人個人に重圧を押し付けるのではなく、ミスの起こりにくい環境に変えていくことが急務だと思います。

 

 

  (ヒコーキはなぜ飛ぶかは次回書きます)


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コメント 8

まさ

こんばんは^^
とりサンのこの記事を読んで気づいたんですが、航空管制のシステムってアナログというか前時代的なんですね。最近何かの雑誌で、操縦席にようやくヘッドアップディスプレイの設置が普及しつつあるというのを見かけました。パイロットの負担軽減にもなってるみたいですし、視界不良による着陸制限の緩和にもつながってるとか・・・。機体の性能の進歩に対して管制が追いついてないというか・・・管制システムの新規または再構築がなされない限りはかなり危険な状況が続くということでしょうか?
とりサンなりの管制システムのアイデアってあるんですか?
by まさ (2006-03-22 22:18) 

とり

まささん こんばんは。
管制システムに関しては、将来的にはいろいろハイテクを使おうとしているようですが、仰るとおり、現状ではものすごくアナログなことをしてると思います。
危険の程度は分かりませんが、なんとかしなければならない状況にあることは関係者の方も感じておられるのではないかと思います。

オイラのアイデアですか?
オイラごときが考えつく事は、詳しい方から見れば鼻で笑われそうで、アレなんですけど・・・。
管制官の仕事は簡単に言えば、「安全を確保できる間隔を保ちつつ、ヒコーキをスムーズに流す」ことだと思います。
これ、鉄道の信号システムの概念と似てませんか?
管制をコンピューターが自動制御し、新幹線の信号機のように、直接「あなたはこうしなさい」という指示を送ることができるとパイロットは大分楽だと思います。
ヒコーキの場合、三次元で動きを制御する必要がありますので、速度だけでなく、高度、方位も指示しなければなりませんが、それこそヘッドアップディスプレイ上にその指示を表示させるわけです。
どうかな?駄目かな?

あと、アメリカが空を返してくれると大分スペースの余裕ができると思います。
コメント&nice! ありがとうございました。
by とり (2006-03-22 23:07) 

マリオ・デ・ニ−ロ

今晩は
日本ではミスを犯した人を罰すればよいというような風潮があります。これではいつまでたっても事故はなくならないと思います。今回の判決では個人の責任は問わないことになり1歩進んだと思います。アメリカでは航空機事故のさいパイロットの責任は問われません。これにより真の事故原因の分析をしています。
これを機に真実が公にされ2度と事故の起こらないシステムの構築に役立つ情報が得られやすい環境が整備されれば良いと思います。
by マリオ・デ・ニ−ロ (2006-03-23 00:32) 

しまふくろう

こんにちは
羽田便でお客様もすべて搭乗され、飛行機のドアーも閉められた状態でATCスタンバイがかかり、ランプアウト10分待ち離陸時間も○○時○○以降みたいなことが起こりますが、これって羽田の航空管制区域に飛行機が集中するのを緩和するために、コンピューターが出発地空港から到着空港もでの所要時間を計算してコントロール可能な便数におさえるように働いているんでしょうが、あまりにも飛んでる飛行機が多すぎるんですかね。
以前は衝突防止装置と管制官の支持のどちらを優先するかの取り決めもなかったようで、この事故以降にきめられたそうですが飛行機を ◇見ること ◇乗ること ◇写すこと 飛行機が大好きなしまふくろうはすべての飛行機が毎日安全に飛ぶことを願っています。
by しまふくろう (2006-03-23 10:32)
by しまふくろう (2006-03-23 10:38) 

とり

アスランマリオさん こんばんわ
コメントありがとうございます。
仰るとおりだと思います。
個人の責任を問わないというスタンスだからこそ問題点を正確に洗い出し、きちんとした改善策を打ち出すことができるんですよね。
航空機事故に限らず、問題解決のためのアメリカ流の手法は、見ていて合理的というか、潔いというか、「上手だな」と感じることがあります。
by とり (2006-03-23 19:52) 

とり

しまふくろうさん こんばんわ
羽田周辺の空域の混雑緩和のために、離陸のタイミングを図ることがあるかどうか、オイラもわかりません。ごめんなさい。
しまふくろうさん同様、飛行機が大好きなとりといたしましても、すべての飛行機が毎日安全に飛ぶことを願っています。
コメントありがとうございました。
by とり (2006-03-23 20:00) 

カンクリ

この事件の判決は私も興味大でした。
暇な時はエアバン聞いている私としては凄く身近な問題でして。
それにしてもエアバンを聞いていると、今現在こんなに沢山の飛行機が上空を飛んでいるんだ・・といつも思います。その度に事故など起こりませんように☆と祈ってます。
by カンクリ (2006-03-24 06:49) 

とり

カンクリさん
こちらもコメント&nice! ありがとうございます。
エアバン聞く度にですか・・・
優しいのですね~
by とり (2006-03-24 18:48) 

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